電線の科学!と宗教?

オーディオに切っても切れない仲の電線。昔懐かしい”宴”、”飛鳥”、”殿堂”等 のアンサンブル型ステレオを未だ大切に 使っておられる超々マニアの方以外はこの”電線”の恩恵をうけておられることと思います。
ここでは”電線”を若干理論的に考察するとともに、世の中に暗躍する”電線宗教” について触れてみたいと思うわけです。

まず”電線”ですが、現在オーディオに主に使われる”ピンケーブル”、”スピーカ ーケーブル”を中心にします。
(理論的考察であれば”電源ケーブル”等の他のケーブルにも転用できます)。
また、導体材質については一般的な”銅”を中心にします。出来るだけ平易な表現を 使おうと考えておりますが、読み手の レベルによっては難しいかも知れません。これ以降「・・」の語彙は培風館発行の物 理学辞典記載を基準にしようと思います。 興味ある方は一度立ち読みされては如何?(高価です!)なお、”そんな事解っと るワイ!”というベテランの方、笑って 許して下さい。
御批判、御意見も頂ければ..それも私にとって勉強です。それでは”電線の科学 !”からスタートしましょう!

1.電線の科学!

1−1.基礎
”導体中を電気が流れる、または電位差は発生する”ということは、金属に限っていえば”自由電子”なるものが媒体となります。銅の導電性が良いのもこの”自由電子”が多い(専門的にいえば電子軌道に関連します)からです。
オーディオ信号として扱われる電気信号の大半は交流です。一口に交流といっても、周波数は「可聴波」である20Hzから20kHz、「電圧」、「電流」に関してはそれこそ何桁もわたる幅広い範囲を扱うわけです。通常「電気抵抗」といえば直流での抵抗を指しますが、交流の場合の抵抗は「インピーダンス」といいます。この「インピーダンス」は全ての電子部品に存在します。この「インピーダンス」のみを定量的に規定した部品を「抵抗減衰器」、「電気容量」を用いて定量規定した部品を「コンデンサ」、「電磁誘導」により定量規定したものを「コイル」と呼びます。取敢ず、コンデンサは高域を通し易く、コイルは低域を通し易いということを覚えておけば充分と考えます。

1−2.導体の構造
一時期、アンプの理想として”ラインウイズゲイン”、つまり増幅のみが存在して一切のキャラクターがないという言葉がはやりました。ここでは”電線”は全くキャラクターの無いものの代表として存在しました。しかしながら、”電線”で音が変化するのは多くの人が確認しており事実です。要は”電線”にもキャラクターは存在するということです。ではなぜキャラクターがあるのか、まず構造面から考察してみましょう。

最初に最も単純な2本の平行単線を想定してみます。この2本の間に極小さいのですが「電気容量」が存在することは容易に想像できます。例えばこれをスピーカーケーブルに当てはめると、スピーカーに小容量コンデンサを並列につないだのと等価です。これにより高周波電流はスピーカーをバイパスしてアース側に流れてしまいます。つまり高域が
落ちてくるのです。通常の長さのスピーカーケーブルであればコンデンサとして働く容量があまりに小さいため、高域減衰は「可聴波」域の外になりますが、極端に長くなると実際聴感でも充分判別出来るようになります。

次に、キャブタイヤケーブルに代表される”撚り線”構造ではどうでしょうか?一般的な現象ですが、電流および磁界では高周波ほど導体および磁性体の表面近傍に影響することが挙げられます。
導体中を電気が流れると多かれ少なかれ磁界が発生します「アンペールの法則」(逆もまた真なりです)。一種のトランスと考えてもよいです。トランスは高周波になるほどその効率が向上します。仮に、導体中心に存在する電子からみれば、自分のまわりに同じような自由電子が存在するわけで既に存在する磁界と同一方向の磁界を発生させる必要があります。これは即ち磁界発生を困難にしている訳で、高周波ほど導通の容易な表面近傍を流れるものと理解しています。
話が少し脱線しましたが、”撚り線”は”単線”に比べて同じ断面積でも表面積が大きくなります。これが”撚り線”の音がしなやかで、”単線”の低音が力があるといった理論的考察になるかと思われます。

もう一つ”撚り線”の構造に起因する問題があると考えます。”撚り線”を構成する素線に着目すれば何かと似てないでしょうか?そう、「コイル」です。”素線同志が接触してるので「コイル」とは見なせない”との反論があるかも知れませんが、自由電子は素線間を行き来するよりも素線内を導通するほうがはるかに容易であると考えます。つまり、”素線の数だけ「コイル」が並列に設置されてて、それぞれの「コイル」間は完全に
独立ではなく多少の相関関係を持っている”のと等価であると考察されるわけです。恐らくこの数多くの「コイル」が信号経路に直列に設置されることで、やはり高域
の減衰が起こるものと考えられます。
本節での結論は、”ケーブルは一見只の導体の様だが、「コンデンサ」、「コイル」の要素を含んでいる。故に、固有のキャラクターを有している。キャラクターを排除するための正攻法はケーブル長さを短くすることである”ということです。

1−2.導体の純度
オーディオで用いられる”銅”では、まず電解により得られる”電気銅”があります。これに”ポーリング”(ちなみに米 Caltech大学の化学者”Pauling”とは何の関係もありません)という処理をしてタフピッチ銅(Fケーブルやキャブタイヤケーブルで使われる銅)になります。この後、真空中で溶解することにより残存酸素を減らせた”真空溶解銅”(OFCですね)が得られます。この真空溶解銅の純度は4N程度です。さらに純度をあげるため「帯溶融法」という手法がとられます。この処理後の純度が6-7N程度となります。これらの工程増加によりコストは倍々ゲーム的に増加します。

金属の分野では一般的なのですが、タフピッチ銅は6N銅とほぼ同じぐらい電気を通し易い事実は注目に値すると思います(念のため、ウソではありません、但し、両者ともに充分「焼きなまし」て加工歪み(後述)除去したをという条件付きではありますが...)。通常、銅の導電性は”標準焼きなまし銅線”を100%とした場合に、その銅線が何%の導電性をもつかという比較値で示されます(これは”IACS”=International Annealed Copper Standerdという規格で98 IACS%などと記載されます)。具体的にはタフピッチ銅および6N銅ともに102 IACS%程度です。つまり銅の純度自体が問題ではないような気がします。それでは、純度変化に伴う何らかの物性変化について考察してみましょう。

不純物の多い電解銅は容易に「加工硬化」するとともに、加工歪みを開放し難いという性質をもっております。
銅の場合、加工による歪みはその結晶の構造に反映されます。加工を加えると銅では一般に「双晶変形」という変形機構が働きます。双晶構造および加工歪み(専門的には”転位”と言います)が入った銅の導電性は定性的ですが確実に劣化します。また、結晶構造が変化すると、上述の”自由電子”輸送に何らかの影響を及ぼすことは容易に想像できます(現時点では断言できる結果を持ち合わせておりません。私自身、今後の課題です)。
一方、高純度銅にも大きなメリットも存在します。低純度銅に比べて「加工硬化」による歪みを、より低温で開放できることです。つまり、「焼きなまし」状態に容易に移れるということです。金属の分野では「熱処理」により「焼きなまし」状態をつくり出しますが、オーディオでは電流を流す、もしくは電位差を印加するといったことと等価ではないかという気がします。多分ケーブルのエージングはこの辺りに関連していると推察されます。純度に関する理論は今後解明されるものと期待しております。本節から結論を導くことは困難ですが、”導体の純度自体が電気伝導度を一義に決めるものではない”とか”いくら純度が高くても強加工された導体の導電性は低下する”といった推論はできそうです。また、予算の都合上で自作する場合も、”低純度銅を焼きなまして使う”とか”作製時にできるだけ導体を曲げない(加工硬化させない)”といった指針も出てくるでしょう。

1−3.ケーブルの被覆
地球上のどこでも「地磁気」が存在します。ましてやオーディオ機器があれば、スピーカーユニット、回転系駆動用モーター、アンプの電源トランスと、磁気だらけといっても過言ではありません。この”磁気だらけ”中を電気が流れるとどういった現象が起こり得るのでしょうか?磁界中に電子がながれると「ローレンツ力」という力が発生します(確か”左手の法則”だったと思います)。この「ローレンツ力」は直流電流の場合一方向に働きますが、交流の場合少々厄介です。即ち導体をその周波数で振動させようとするのです。この振動という点では”単線”構造が有利、”撚り線”は不利です。しかしながら、”撚り線”でもその外周、つまり被覆で締め付ければデメリットは幾分解消されるという推論が成り立ちます。長岡さんのいう”重くて丈夫で鳴き難いケーブル”の原点はこれだと考えます。
さらに、被覆の「誘電率」もケーブルの「コンデンサ」的振る舞いに関係すると思いますが、ここは私の専門外なので割愛せていただきます。

1−4.ケーブルの接点
ケーブルはそれ自体単独で存在せず、つながれる機器が存在します。そこに”接点”が存在することも事実です。では、接点で起こり得る現象は何でしょうか?通常、接点には「接触抵抗」が存在します。大電流を伝送する場合にはあまり大きな問題となりませんが、オーディオのように微弱電流を伝送する場合大きな問題となります。金属接点表面には多かれ少なかれ酸化膜が存在します。大電流の場合、この酸化膜を容易に破って通電しますが、微弱電流では酸化膜を信号に対して直列に配置したのと等価になります。これは微弱信号の欠落「トンネル効果」を意味します。この「接触抵抗」は両接点間の実効接触面積、電流密度、接触圧力に反比例します。電流密度はオーディオ信号が決まっているためどうしようもありませんが、実効接触面積を増やす、接触圧力を増すことにより改善はできます。”太いケーブルと大きなターミナル”とか”ネジの締め付け力増加”とか”接点復活剤使用”などは、この現象により理解可能です。
もう一つのアプローチとして、”酸化膜厚さの低減”も挙げられるでしょう。金属の中で酸化に対して安定なのは”金”、”白金”などです。”金メッキコネクタ”とか”接点の清掃”とかはこの現象により理解可能です。

1−5.まとめ
小難しいことをくどくど述べましたが、所詮、理論は自然現象を人間が後から解釈したものです。まず現象ありきですが、限られた予算と労力で最大効果を挙げるには有用と考えます。理論的思考自体は無料です。
上述の全ては物理学的視点により考察したもので、恐らく大きな間違いはない(多分?)と考えております。どんなケーブルでも無色透明なものはなく、多少のキャラクターは持っているものです。理論が完全なオーディオを実現してくれるとは思いませんが、理論は改善方向に対する定性的指針になり得ると考えており、理解しておいても損はないはずです。ここまでの記載は医者でいえば”研究医”的視点にたったもので、患者はそれこそ千差万別です。”臨床医”的視点の解釈は次章の”電線の宗教?”で述べます。

2.電線の宗教?

2−1.オーディオファンの現状
世の中のオーディオファン全てが御自分のシステムの音に満足しているとは限りません。極少数ですが満足されている方も存在するわけです。このような人は誠に幸せである、と同時にそれを越える音を欲していないと解釈し本章の対象から外させて頂きます。では、満足できない御仁はどうすればよいのか?さらに、全てのケーブルを購入でき、機器を取っ換え引っ換えできるだけの財力をお持ちの(実際に存在する!)方もここでは除外させていただきます。本章は機器を買い替えるのは一寸?とか、出来るだけ少ない投資で最大の効果を挙げたい!といった切実な悩みをお持ちの方に捧げます。
オーディオファンの悩みと憧れ、例えば”低音が出ない”、”高音に歪み感がある”といった現状否定型と、”こんな高音になればもっと清々しく聴けるのに”、”もっと低域が伸びれば音楽が楽しめるだろうなぁ”といった希望的観測型、さらには”こんな音で良いのだろうか?”、”他人はどんな音を聴いているのだろうか?といった現状不安型、どんな分類をしようがいずれのタイプも何かを変えたい!という点で共通だと思います。
まず、現状不安型は他人の音(意見ではない!)を出来るだけ多く聴きましょう。現状否定型はどうすれば改善できるかを考察しましょう。希望的観測型もレファレンスとなる他人の音を聴いて見つけましょう。いずれにしても、現状の把握と改善の方向を明確化したうえで、掲示板に質問投稿されるのが結局近道であると考えます。

2−2.具体的処方
前節で現状把握ができた方、今お使いのケーブルの構造と上記理論を照らし合わせて改善方向にあるケーブルの理想を考察してみましょう。そのうえで想定される構造、被覆、接点をもった製品をお探しになるとかなり的は絞れると思います。また、具体的製品が見つからず止むなく自作しようと考えられても上記理論はある方向を示してくれると思います。これ以上は人それぞれで具体的処方ができません。試聴ができない場合は具体的製品名を挙げての掲示板への質問がかなり有効かと思います。
但し、ケーブルは女性の化粧ぐらいに考えられたほうが宜しいかと思います。化粧で”森高千里”は”山田花子”に変身?致しません。(ちなみに両者ともに私は何の関係も、優劣の対象として挙げたのでもないことをお断りしておきます。ただの思いつき?!)いわんやケーブルでJBLがタンノイの音を出せないのです。今ある機器の調整を行う程度に留めておいた方が無難です。
どこかのジャズ喫茶店店主のようにトンデモになるかも..それも趣味であり、良音追及の姿勢ですから否定はしませんが、私ごとき庶民にはとっても付いて行けません。充分健康体をもちながら、栄養剤に多額の投資をしているように感じます。

2−3.電線の宗教?(本題)
例えば、実行力のあるAさんがケーブルを換えて、自分の思っていた方向に音が変わったとしましょう。当の御本人は##社の##ケーブルはすごく音が良かったと思うことでしょう。具体的な改善点を挙げることも可能です。ただ、ここに問題があるような気がします。ここでの事実は”##社の##ケーブルが私の改善方向に合っていた”ことだけであって、そのケーブルの絶対評価ではないということに気付いて頂ければ、と考えるのです。この現象論を他の人の回答に用いるから意見の相違が生まれます。意見の相違自体を否定するつもりはないどころか活発な討論が為されて結構と思う反面、もう少し定性的にでも解釈が付け加えられてれば誤解を招かないのにと思うことしばしばです。
宗教をやっている人はその人の意志で御自由に!ですが、それを他人に勧めるときは非常に危険です。相手の事を熟知しておく必要があると考えます。ましてやオーディオは使用機器も好みも千差万別どころか同じ音を聴いても人それぞれ感じ方が違うのです。

”現象論的事実だけで勧めるのは布教活動と似ている”と感じてしまうのは私だけでしょうか?

私自身の希望ですが、特にケーブル質問者は”現状どんな機器とケーブルを使っていて、どんな音(方向)に改善したい”といった具体的質問があればと思います。また、回答者はどんな機器とケーブルを使っていて、ある特定のケーブルに換えたらどんな音に変わったという回答であれば良いのにと思います。さらに改善前後のケーブルの構造、導体純度、被覆、接点等について定性的解釈が付け加えられてればなお一層説得力は増すとともに質問者の具体的参考になるような気がします。
そういう質疑が可能になればと考え、稚筆ながらまとめてみた次第です。より活発な質疑応答で充実したオーディオライフを楽しみませう。

この記事はV24Cさんに提供していただきました。

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